大判例

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大阪高等裁判所 平成4年(ラ)44号 決定 1992年3月31日

抗告人

波多野智通

加藤義一

深田則雄

藤井晃

加村賀勇

西川仁

藤井三恵子

高雄宏之

金岡英明

山本照夫

波多野和枝

平田園美

平田三千和

田中寿子

吉川昭

桑原学

杉江武司

八木実

園田貞子

石坂昭典

松木和雄

川嶋久美子

北村善昭

矢部正三

佐々木伸次

抗告人ら代理人弁護士

吉原稔

野村裕

小川恭子

玉木昌美

元永佐緒里

主文

一  原決定中抗告人波多野智通、同加藤義一、同深田則雄、同藤井晃、同加村賀勇に関する部分を取り消す。

二  右抗告人五名の補助参加を許可する。

三  その余の抗告人らの各抗告をいずれも棄却する。

理由

第一本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一本件基本事件についての原告草津市の請求及び抗告人らの主張の要旨は、原決定一枚目裏一行目から同二枚目裏一行目までと同一であるから、これを引用する(ただし、原決定二枚目裏一行目の「該等する」を「該当する」と改める。)。

二民訴法六四条にいう「利害関係」とは、補助参加人の私法上又は公法上の権利義務その他法律上の地位が、論理上訴訟物たる権利関係の存否いかんを前提にして判断される関係にある場合をいうものと解される。

抗告人らは、人格権の侵害を受けていることを補助参加の利益の根拠の一つとしているけれども、その主張する人格権は、論理上本件基本事件の訴訟物たる権利の存否を前提として判断される関係にはない。したがって、抗告人らのこの点の主張は失当である。

三一件記録によれば、抗告人波多野智通、同加藤義一、同深田則雄、同藤井晃、同加村賀勇(以下「抗告人五名」という。)は、本件基本事件の訴訟物たる権利関係と同一の権利関係につき、自ら適法に監査請求を経由した上で、別件の住民訴訟を提起し地方自治法二四二条の二第一項四号の代位請求訴訟を追行していることが認められる。そして、抗告人五名が右住民訴訟において主張する権利関係は、論理上本件基本事件の訴訟物たる権利の存否を前提として判断される関係にある。すなわち、本件基本事件の請求が棄却されたならば、抗告人五名は、別件住民訴訟において、論理上本件売買契約の無効を主張して原状回復を請求できなくなる関係にあるのであるから、抗告人五名は民訴法六四条にいう利害関係を有するものといわなければならない。

なお、右住民訴訟が本件基本事件との関係で二重訴訟に該当し不適法と判断されるとしても、そのことが抗告人五名の補助参加の利益を否定することにはならない。その理由は次のとおりである。住民訴訟は、普通地方公共団体の執行機関等による財務会計上の違法な行為又は怠る事実が最終的には当該地方公共団体の構成員である住民全体の利益を害するものであることからこれを防止するため、特に地方公共団体と住民の判断が相反し対立するときに、地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民にその予防是正を裁判所に請求する権能を与えて地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであって、住民訴訟の原告は専ら住民全体の利益のために公益の代表者として地方財務行政の適正化を主張するものである。したがって、仮に地方公共団体が先に訴えを提起していたため二重訴訟に該当するという理由で住民訴訟を提起・追行することが許されない場合であっても、住民参政の一環として認められた右住民訴訟の趣旨・目的に照らし、当該住民が自ら適法に監査請求を経由して住民訴訟を提起しうる地位にある場合には、地方公共団体の提起する訴訟に補助参加することができるものと解すべきである(住民訴訟と類似する制度である株主の代表訴訟(商法二六七、二六八条二項)及び民法上の債権者代位訴訟(民法四二三条)を提起する要件を満たす者には、当然に民訴法の補助参加が認められると解されていることからも、右の結論は裏付けられる。)。

したがって、抗告人五名については補助参加を許可すべきであるが、その余の抗告人らは住民訴訟を追行しうる公法上の地位になく民訴法六四条にいう利害関係を有しないと解されるので、補助参加を許可すべきではない。

四よって、抗告人五名の申立てを却下した原決定は不当であるからこれを取り消してその申立てを認容し、その余の抗告人らの申立てを却下した原決定は正当であるのでその各抗告をいずれも棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 吉田秀文 裁判官 鏑木重明 裁判官 坂本倫城)

別紙即時抗告申立書

申立の趣旨

本件原決定を取り消す。

補助参加人の参加を許可する。

との裁判を求める。

申立の理由

一、原決定は、「民事訴訟法六四条の利害関係は、他人間の訴訟の結果いかんによっては自らの私法上又は公法上の権利関係に法律上影響をうけるという意味での法律的な利害関係をさすものであるところ、原告の請求が認容されても、又、敗訴しても参加人らによる住民訴訟における裁判所の判断に法律上の影響を与えるものではないし、さらに、人格権による妨害予防請求権は、本件訴訟の勝訴によって実現されるとしても、原告の被告に対する勝訴とは別の経路によってもたらされうる事実上のものでしかなく、その関係は基本事件と補助参加人との「法律上の利害関係」でないことは明白であり、敗訴したとしても人格権には豪も影響をうけるものではない」として却下した。

二、しかしながら補助参加とは、訴訟の結果について利害関係を有する第三者が当事者の一方を勝訴させるため補助するために参加するものであり、利害関係とは事実上の利害関係ではたらず「法律上の利害関係」が必要であるところ、基本事件の原告は草津市という地方公共団体であり、本件暴力団事務所が収去され、土地所有権が返還されることによって、市有財産を回復するにとどまらず、地域住民に対し暴力団事務所が存在することによる生命財産への脅威を除去することにより、地方自治法第二条三項第一号「地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全健康及び福祉を保持すること」との基本的責務を果たすことができる。

本件基本事件は、原告が被告との間の「駐車場にする」との使用目的についての約束に違反して、暴力団事務所を建設したことについて、住民から強い批判がよせられ、住民の安全を回復するために本件訴訟を提起したこと、法律構成としては目的違反による契約解除という構成をとっているが、本件訴訟によって、実現せんとする法的利益は暴力団事務所の撤去によって「住民の安全を保護する」との地方自治体の責務を果し住民の安全健康福祉を実現することにあることは明らかである。そして、一方補助参加人らは、一方で草津市の市民として住民訴訟を提起し、一方で自ら暴力団の脅威を未然に防止する人格権によって「住民の安全健康福祉」を実現せんとするものであって、両者はその点で法的利害関係を共通にするものである。

三、原決定は、原告が勝訴しても敗訴しても補助参加人の利害関係には消長をきたさないというが、補助参加人の参加の動機、目的は原告の請求する「法的構成」のみによっては原告の勝訴を確実なものとすることができず、地方公共団体たる原告の制約から原告のとりうる法的構成には限界があることから、原告の勝訴を確実なものにするために補助参加をするものである。もちろん審理の結果、あえて補助参加人のとる法的構成に依拠しなくとも原告の法的構成で主張立証上も十分とする場合には勝訴判決をなしうることはいうまでもない。

補助参加人としては、原告が勝訴すればあえて住民訴訟において、訴訟を遂行する必要がなくなり人格権が実現することになるのであるから、そのような場合補助参加の道を認めるべきである。

原決定は「草津市勝訴という別の経路によってもたらされる事実上のものでしかない」というが、あえて別訴(住民訴訟)を遂行しなくとも、補助参加することによる勝訴が確実なものとなり、自己の人格権が実現される場合にはひろく、利害関係を有する第三者として参加をみとめるのが至当と考えうるものである。

四、原決定は、原告が勝っても敗けても、参加人の人格権に影響はないというが、原告が勝てば、参加人の人格権は実現されるのであるから法律上の利害関係のあることは疑いない。

「原告が敗訴しても、参加人は別に人格権にもとづいて裁判ができるのだからよいではないか」ということを理由にして参加を許さないのであれば、補助参加の最も典型的例とされる債権者の主債務者に対する貸金請求事件に、連帯保証人が主債務者のために補助参加するという事例でも、債権者の主債務者に対する判決の既判力は連帯保証人には及ばないのだから、主債務者が敗訴しても連帯保証人の法的地位には何らの影響も及ぼさないことを理由として連帯保証人の補助参加を認めないのと同じことになる。補助参加はあえて、別訴を提起しなくても既に係属している事件に参加することで自己の地位を確固たるものにするため(前述の例では債権者が敗訴すれば連帯保証人はあらためて自己に対して別訴を提起される心配がなくなる)参加するものであるからである。

本件の場合は、原告が提起している訴訟も参加人が別の住民訴訟で提起している代位請求も「建物収去土地明渡、所有権移転登記抹消」という請求の趣旨は同一である。ただ原告は契約違反による解除を請求原因として、参加人は売買契約の無効を請求原因として、攻撃方法を異にしているにすぎない。その意味では参加人の法的地位は人格権を有する者であると同時に売買契約を無効として住民訴訟を代位提起している原告たる地位にある者である。参加人はその両者の地位を具有して本件訴訟に補助参加を申立てているのである。

参加人は今の段階で人格権にもとづく事務所の撤去を別訴の住民訴訟で提起しているわけではない。そうすると、両者(原告と参加人の)の有する法的利害関係は全く同一のものなのである。

五、本件について、原告が参加に異議を申し立てるのは参加は「ありがためいわく」であるというのかもしれない。参加人が参加を申し立てる動機は別訴の住民訴訟に明らかにしているように、原告と暴力団佐山利次とのなれあい的癒着的体質からして訴訟自体が、なれあい的に(市民に対して、訴訟をやって頑張っていますというポーズを示すことを目的として)やっている危険性があることから、又、そのことを被告が抗弁として主張する可能性があることから、原告の勝訴を確実なものにするためには「契約の目的違反による解除」だけでなく「売買契約の無効」を主張立証する必要があるということにある。

それは、原告にとって仮に「ありがためいわく」であったとしても、ことは草津市民にとっての草津市有財産の問題、暴力団の脅威の問題である。

その意味で「ありがためいわく」であっても原告としてはあえて参加を甘受して、参加人らの協力に大いに感謝してしかるべき筋合のものなのである。

その意味でも本件参加は許可されるのが筋合である。

六、ところで、判例コンメンタール民事訴訟法上、P二〇六によれば、

「他人の訴訟の結果についていかなる利害関係を有すれば補助参加が認められるか。一般に学説は、次のような基準を立てている。すなわち、利害関係は、原判決主文で示される訴訟物たる権利または法律関係の存否についての判断に対するものでなければならず、更にそれは法律上のもの、つまり、参加人の権利義務その他法律上の地位が、論理上訴訟物たる権利関係の存否いかんを前提にして判断される関係にある場合でなければならない(兼子一「新修民事訴訟法体系」〔一九六五、酒井書店〕三九九頁など)、と。訴訟物たる権利関係についての判断いかんによって参加人(第三者)の地位が決まってくる関係になければならないとして、いわゆる訴訟物についての判断との先決関係を要件とするこの学説の立場は、おそらく従来から教室の設例として好んで援用されてきたあの債権者・主債務者間の訴訟と保証人の例や、追奪訴訟における売主の参加の例などの古典的な典型例を念頭において立てられた理論だと思われる。

しかしながら、補助参加の中でも最もポピュラーな例である、当事者一方の反訴によって第三者が求償または損害賠償義務を負う関係にあるという場合(追奪訴訟における売主の参加もこれに属する)でも、第三者のうける不利益は、判決理由中の判断を抜きにしては考えられないはずであるから、果たして右の一般的な要件基準がどこまで妥当性を有するかは疑問であるのみならず、補助参加の機能領域が広汎に及び、利害関係にも種々の態様を認めざるを得ない現時点においては、右の要件基準で画一的に割り切ってしまうことは、とうてい実際上の要請に耐えられないように思われる(井上治典「補助参加の利益」民訴雑誌一六号一三七頁以下なお新堂幸司〔民事訴訟法〕〔一九七四、筑摩書房〕四九五頁)。法律上の利害関係か、事実上の利害関係にすぎないか、という区別とても同様であり、むしろ判例においては、補助参加を認めた場合には法律上の利益ありといい、否定した場合には事実上の利益に過ぎないとされる傾向にあり、法律上の利益か否かは結論が得られた後の理由づけに過ぎない嫌いがある。

判例においては、未だ必ずしも理論は固まっていないものの、学説におけるよりもかなり弾力的に補助参加を認める傾向にあることだけは確かである。」とされている。

本件もこのような観点にたって許可されるべきである。

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